大元流胎術

橘家神道軍傳 大元流(だいげんりゅう・おおもとりゅう)胎術。 又の名を鎮心之傳。

神道行法である観心之傳と対になる橘家一門の秘伝躰術である。大元尊神・国常立命を奉祭し、この技術を伝える司を「大元長上」と呼んだ。
古来より京都梅之宮の神官・薄田氏を中心に橘姓の中で神道行法と共に修練されてきたが、その技は外伝せず、今の世に於いては、その名を知る者すら皆無と言っても過言ではない。

この数年来、不思議な縁の導きで、最後の甲賀者・川上仁一先生に就いて学習させて頂いたこの技術群は、同じく(タイジュツ)を標榜する各流儀とは明らかに一線を画し、他の同時代の武術流派と比べても異彩を放つ風格を有する。
我が家は、甲陽武田ー真田家の軍法だけでなく、橘家・楠木家の兵法とも浅からぬ縁があったと聞くが、まさか私がこの技を伝えられようとは……何か空恐ろしい因縁を感じる。
なにより忍びの人脈群を介して伝えられたものだけあって、形稽古、数稽古というよりは活用の理想というか、思想がはっきりとしており、そこに向かって我が身も心も錬成させて行くという「玄人」好みの内容だ。
その一番の特徴である『詰め』という状態を成立させることは則ち、生殺与奪の権を掌握する、神武不殺の境涯につながってゆくのだと言う。

当然簡単なことではない。
今まで以上に武芸兵法への工夫が求められる。
下手したら理想論で終わるような難しさだが、師に触れると、それは決して絵空事ではない、確りとした武技として表現されるべき内容であることを痛感する。
しかし、このようなユニークでマイナーな流儀が、今の今まで文物ともに伝わって来たというのだから、日本文化の懐というのは、何と豊かで奥が深いのだろうか、と感心もするのだ。

先日この武技の本傳・殺活・十束・必勝に至る全伝の学びが終了し、有縁の人士あれば伝授しても良いというお墨付きを頂いた。
まだまだ早いと言う自覚があるが、師曰く「教えて学ぶ段階」なのだそうだ。
機をみて、この特異な「胎術」を学べる環境を整えたいと考えている。それまでは独り、大元の神と向かい合って稽古の日々を楽しもうと思う。