当会では楊氏太極拳(伝統楊氏太極拳 85勢)を中右心に稽古しています。
楊家太極拳宗家の外戚にあたる近代の名人・傅鍾文(フージョンウェン Fu Zhongwen 1903-1994)老師が、姜氏門2代・鄒淑嫻(ゾウスゥシェン Zou Shuxian 1925- )師に教授したもので、上海では「楊家老様子(ヤンヂャーラオヤンヅ=楊家の昔のままの技法)」と呼ばれている、素朴で古流の趣を伝える太極拳です。
楊家太極拳の開祖は楊露禅(Yang Luchan 1799–1871)老師、2代伝承者はその息子、楊健侯(Yang Jianhou 1843 – 1917)老師、そして3代伝承者は楊露禅老師の孫、楊澄甫(Yang Chengfu 1883 – 1937)老師です。楊澄甫老師の兄弟の孫娘婿、傅鍾文(Fu Zhongwen)老師は楊家十大弟子の一人として名を知られた楊家太極拳の伝人でした。
伝承に当たって、その頃すでに武術家として盛名を馳せていた鄒老師は、師父・姜容樵(Jiang Rongqiao)公の推薦を得て、武術家としては知る人ぞ知る存在であった当時50才代の傅鍾文老師に師事し、楊家に伝わる拳・刀・剣・大杆を習得しています。その返礼に鄒老師は傅老師の実兄に「梅花双剣」を伝えたということです。 初学の数年間、武術家同士ということもあり、警戒された傅老師は、容易にその技術の秘密を明かさなかったといいます。しかし鄒老師の熱意と誠実さに、次第にその存在を重く見なした傅老師は、最終的に鄒老師を非常に信頼し、自らの技芸の精要を余さず与えたということです。 後に、虹口体育場で行われた体育委員会主催の推手講習会等には、田兆麟老師(高名な太極拳家・傅老師の兄弟弟子)とともに師範として重用されたということです。 また後に鄒老師は、田老師から古式の推手技法を、姜容樵公から湯子林伝太極長拳を学び、自らの太極拳に磨きを掛けました。
筆者が学んだときは、最初の1年間は第一段(最初の十字手までの14式)の練習に費やしました。 特に予備式~起勢・攬雀尾を、いやと言うほどやらされました。 鄒老師は、「第一段は太極拳の母架子」であり「太極起勢は第一段・第二段・第三段の根本」だと常々言われていました。また、門内で行われている、各方向からの力のベクトルをアースする練習法など、基本とは言えども、大変緻密で奥の深いものを体験することが出来ました。 一段がそれらしい形にならないうちは、二段は絶対に教えてもらえません。(先輩がやっているのについてやる分はオーケーでした)足掛け4年を経て、85式を習得したのですが、「それでも早すぎるくらい」と言われたときには愕然としました。とにかく、基本こそが重要なのだと思い知らされた数年間でした。
当会では、そういった師伝に敬意を表し、伝統的な教学法を出来るだけ忠実にトレースした、丁寧な練習会を心がけております。